今更ながら不確定性関係とは

 今回は、量子力学における不確定性関係について考えてみる。不確定性原理と呼ばれることもあるが原理というと通常はこれ以上はその根拠を求めることができないという意味を含むはずである。なお、私は量子力学は場の量子論の近似であるというスタンスで考えている。もっとも全く近似と言えない場合もあるので仮定しているというべきかもしれない。

 量子力学は粒子の物理であり、場の量子論は場の物理である。量子力学は位置 \mathbf{x} と運動量 \mathbf{p} の正準交換関係を考え、場の量子論では場 \phi(x) とその正準共役量 \pi (x) の正準交換関係を考える。

 なお、量子力学では、光の考察から Einstein の関係式 E = \hbar \omega が生まれ、電子の考察から de \; Bloglie の関係式 \mathbf{p} = \hbar \mathbf{k} が生まれた。すなわち、光としての電磁波と電子の物質波としての波動とが根本にある。なお、先に挙げた de \; Bloglie の関係式は式中に質量 m を含まない表現で質量が無い場合も含む概念である。そして、共通概念は『波動』であって、質量が無い場合(光子)と質量が有る場合(電子)である。そうなると、質量とは何かが非常に重要である。そして、『波動』が根源にある。『存在は全てが光』への道につながる可能性がある内容である。質量の無い光子という波動が質量を獲得することで質量の有る物質量子(電子やハドロン等)が生まれたという可能性を示唆している。・・・とちょっと調子に乗って自仮説に脱線してしまったので元の不確定性関係の話題に戻る。

 そして、これらの Einstein の関係式と de \; Bloglie の関係式とから、量子力学での正準交換関係 [\hat{\mathbf{x}},\hat{\mathbf{p}} ] = i \hbar \hat{1} が求められる。

求め方をできるだけわかり易く以下に説明することを試みる。具体的には上記したように、 Einstein の関係式より、 E= \hbar \omega が成立し、 de \; Broglie の関係式より \mathbf{p} = \hbar \mathbf{k} が成立する。 de \; Broglie は、粒子であると考えられていた電子が波動としての性質を合わせ持つことを明らかにした。その波動を平面波と考え、複素数の形で下記のように表すとする。

 \qquad \displaystyle{ \psi (t, \mathbf{x} ) = a \; e^{-i (\omega t - \mathbf{k} \cdot \mathbf{x})} } ・・・(1)

ここで、自由場での電子の運動エネルギーは \displaystyle{ E = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m} } であるから、 Einstein の関係式とから次式が成り立つ。

 \qquad \displaystyle{ \hbar \omega = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m} \quad \therefore \omega = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m \hbar} } ・・・(2)

したがって、電子の平面波は、次式で表される。

 \qquad \displaystyle{ \psi (t, \mathbf{x} ) = a \; e^{-i (\frac{\mathbf{p}^2}{2 m \hbar} t - \frac{\mathbf{p}}{\hbar} \cdot \mathbf{x})} }
・・・(3)

平面波 \psi (t,\mathbf{x}) を時間微分すると、

 \qquad \displaystyle{ \frac{\partial \psi}{\partial t} = - i \frac{\mathbf{p}^2}{2 m \hbar} \psi \quad \therefore i \hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m} \psi } ・・・(4)

平面波 \psi (t,\mathbf{x}) を空間2階微分すると、

 \qquad \displaystyle{ \nabla^2 \psi = - \left( \frac{\mathbf{p}}{\hbar} \right)^2 \psi \quad \therefore - \hbar^2 \nabla^2 \psi = \mathbf{p}^2 \psi \quad \therefore - \frac{\hbar^2}{2 m} \nabla^2 \psi = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m} \psi } ・・・(5)

したがって、次の波動方程式が得られる。これは自由場の Schr \ddot{o} dinger 方程式である。

 \qquad \displaystyle{ i \hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = - \frac{\hbar^2}{2 m} \nabla^2 \psi } ・・・(6)

上の式(6)を電子の運動エネルギー \displaystyle{ E = \frac{\mathbf{p}^2}{2 m} } と比較すると、次の関係が得られる。

 \qquad \displaystyle{ E \longrightarrow i \hbar \frac{\partial}{\partial t} \qquad \mathbf{p} \longrightarrow - i \hbar \nabla  } ・・・(7)

したがって、量子力学における正準交換関係は次式となる。

 \qquad \displaystyle{ [\hat{\mathbf{x}}, \hat{\mathbf{p}} ] = [ \hat{\mathbf{x}}, -i \hbar \nabla ] = - i \hbar \hat{\mathbf{x}} \cdot \nabla + i \hbar \nabla \cdot \hat{\mathbf{x}} = i \hbar \hat{\mathbf{1}} } ・・・(8)

 さらに、この位置 \mathbf{x} と運動量 \mathbf{p} の正準交換関係から次式が求められる。

 \qquad \displaystyle{ \Delta x \Delta p \geqq \frac{\hbar}{2} } ・・・(9)

これが不確定性関係と呼ばれる。なお、この求め方も先の正準交換関係の求め方も例えば前野昌弘先生の「よくわかる量子力学」等、色々な本に詳細な説明があるので、怪しげなこのブログよりもきっちりとした本を読むべきである。(私はまだ勉強中の身なので。。。)

 以上のように、『波動』を記述した Einstein de \; Bloglie の両関係式を根拠にして正準交換関係が得られ、正準交換関係を根拠にして不確定性関係が得られるならば、不確定性原理のように「原理」と呼ぶのは少し無理がありそうだ。

 なお、量子力学では位置 \mathbf{x} も運動量 \mathbf{p} も粒子であれば直接に測定できる量なので不確定性関係の物理的意味に関心がある。しかし、場の量子論では場 \phi(x) とその正準共役量 \pi (x) に着目するので正準交換関係が極めて重要であるのに対し、不確定性関係については形式的に定義できたとしても直接には観測できない量であり物理的意味に関心が持たれないように思われる。私が一番関心がある光子を例にすれば、光子は電磁場を量子化して得られる量子であって位置が定義可能ないわゆる粒子ではない。そして、ゲージ場 A_\mu (x) は直接には観測できない量である。

 なお、量子光学のうち連続量量子光学では、基本的には有限自由度の量子力学を基盤とするので電場や磁場のゆらぎが不確定性関係と関係付けて表現されるというのは納得がいく。ただ、場の量子論の考え方も幾分かは取り入れられてはいるようだ。

 一方、自仮説の量子場光学では、量子力学が場の量子論の近似というスタンスで、場の量子論を考慮して構築するという考え方なので、不確定性関係の根拠となる正準交換関係がより重要であるということになる。そして、電磁場の量子化において、場の量子論と同様に量子場光学は、正準変数を A_\mu とし、その正準共役量を \pi_\mu として、正準交換関係を設定することから始めている。以上のような考え方なので自仮説の量子場光学では積極的に不確定性関係を用いて論理展開することはしていないつもりだ。今のところこのような考え方が適切なのかどうかわからないが。。。