量子場光学の考え方

 量子光学は、量子力学の視点で構築されているように見える。そこで、自仮説の量子場光学は、量子力学が場の量子論の近似であると考えて、量子光学を場の量子論を考慮して見直すというスタンスで構築し直すために立ち上げた。量子力学は粒子の物理であり、場の量子論は場の物理である。それがゆえに、単に量子力学が場の量子論の近似として置き換えるだけでは不十分な事態が生じ得る。

 まずは中西襄先生の「場の量子論」を参考にして、場の量子論でのエネルギーの定義を確認した。

p114の「3-3c Hamiltonian」に自由な電磁場のハミルトニアンの説明がある。以下に、要点をまとめてみる。

自由な電磁場のハミルトニアンは次式で定義される。

 \qquad \displaystyle{ H_{EM} = \int d^3 x \; \hat{\mathcal{H}}_{EM} (x) } ・・・(1)

ここで、

 \qquad \displaystyle{ \hat{\mathcal{H}}_{EM} \equiv \sum_{k=1}^3 \pi_k \dot{A}_k + \pi_0 \dot{A}_0 - \mathcal{L}_{EM} \\
\qquad = \frac{1}{4} F^{\mu \nu} F_{\mu \nu} + \sum_k F_{0 k} \dot{A}_k + B \sum_k \partial_k A_k - \frac{1}{2} \alpha B^2 }

                ・・・(2)

式(2)は次のように書き直される。

 \qquad \displaystyle{ \hat{\mathcal{H}}_{EM} = \mathcal{H}_{EM} + \sum_k \partial_k (F_{0 k} A_0 + B A_k) } ・・・(3)

ただし、

 \qquad \displaystyle{ \mathcal{H}_{EM} \equiv \frac{1}{4} \sum_{k, l} {F_{k l}}^2 + \frac{1}{2} \sum_k {F_{0 k}}^2 - \dot{B} A_0 - \sum_k \partial_k B \cdot A_k - \frac{1}{2} \alpha B^2 } ・・・(4)

式(4)の第2項は3次元積分すると落ちるから、次のようになる。

 \qquad \displaystyle{ H_{EM} = \int d^3 x \; \mathcal{H}_{EM} (x) } ・・・(5)

式(5)を使って、 A_k, \; A_0, \; \pi_k, \; \pi_0 に対する Heisenberg 方程式が書け、正準量子化は矛盾なく行われている。

ここで、ランダウゲージ \alpha = 0 として、自由な電磁場のハミルトニアンは次のようになる。

 \qquad \displaystyle{ H_{EM} = \int d^3 x \; \left[ \frac{1}{4} \sum_{k, l} {F_{k l}}^2 + \frac{1}{2} \sum_k {F_{0 k}}^2 - \dot{B} A_0 - \sum_k \partial_k B \cdot A_k \right] } ・・・(6)

以上のように、電磁場のハミルトニアンは場全体に係る空間積分 \displaystyle{\int d^3 x }となっている。(ここは式(6)だけ記載すれば足りるのだが、勉強のために全体をまとめ直した。)

 ところで、重要な点は、量子力学は粒子の量子論であるところ、場の量子論は場に着目したものという当たり前のところだ。場のハミルトニアン H は場の状態ベクトル |\alpha> を指定したときに H |\alpha> = E |\alpha>固有値としてのエネルギー E が決まる。場の状態を指定すると場のエネルギーが決まるということだ。場の量子論で場と場の相互作用を考えるのは当然である。そして、エネルギーの移動は相互作用を意味しており、エネルギーの移動は場と場との間で起こると考えるのは当然ということだ。量子場光学においては、粒子の量子論である量子力学を場の量子論の近似と考えている。場の量子論は、素粒子物理と共に発展してきたせいか、自由場内を量子が移動することにあまり関心がない。しかし、場と粒子とを繋ぐことを目論んだ量子場光学においては、場の量子論と粒子の量子論とを整合させるために、自由場での量子の素励起情報の波動の伝搬と表現するようにしたのだ。このように整理してみるとスッキリとしてくる。単独粒子の量子力学と場の量子論との間には、多粒子系と特殊相対論の2つの隔たりがある。そこで、これらの隔たりを越えるために量子の生成・消滅という概念が登場した。したがって、量子場光学の立ち位置から考えると、両方の良いとこ取りを単にするだけではうまく行かず、新たな概念の導入が必要となったのだ。そこで、自由場での「量子の素励起情報の波動の伝搬」という新たな概念を導入した。光子は電磁場の量子化により構築された概念であり、質量が0の量子である。光子を粒子の量子論である量子力学で扱うには大胆な近似が必要となるのだ。そのために、近似が成立する要件をきちんと考える必要がある。そんな理由で、「光子の素励起情報の波動」とか「1光子レベルの光波束」とかいうふうにゲージ場の波動を表現している。なお、以前に自由光子場を1光子レベルの光波束が伝搬する様子を仮想光子と実光子とでイメージするという投稿をしているが、自由光子場での仮想光子や実光子はあくまで光子の素励起情報であって \hbar \omega \frac{1}{2} \hbar \omega のようなエネルギーのかたまりをイメージしてはならない点に注意が必要である。

 量子もつれ(量子エンタングルメント)についての考え方もここで少し触れたい。これまでの投稿(2023-09-24及び2023-09-27)では2つの1光子レベルの光波束について互いの光子の素励起情報が同じ場合だけを例に挙げて説明したが、もつれていると言う意味は関係付けられているという意味であって、例えば一方の光子の素励起情報と他方の光子の素励起情報について位相が \pi 異なっているという関係付けがあればこれも量子もつれであることを意味している。広く言えば、複数の量子の素励起情報において互いに関係付けがあればその関係付けに基づいて量子もつれしているというふうに考えている。この関係付けが一般には相関と呼ばれている気がする。そして、この相関は素励起情報の重ね合わせをしても失われない。なお、量子もつれは多粒子系(多体系)の量子力学に対応する概念で、各粒子のそれぞれの状態に着目してから複数粒子全体の状態を考える。それに対して、量子場光学では複数粒子が存在する場の状態に着目してからそこに含まれる粒子の状態を考えているつもりである。物を見る順番が異なるので、量子力学でいう量子もつれと量子場光学で私が勝手に考えている量子もつれとはちょっとずれて異なっているのかもしれない。今後の検討課題だ。

 こんなふうに、自仮説の量子場光学の考え方を検討してみたが、どうだろうか。特に、量子もつれについてはまだ勉強不足なのでかなりええ加減なことを言っているかもしれない。自仮説はほっといて素直に量子もつれをもっと勉強しようと思う。量子もつれは量子情報とも密接に関連しているようで発展性という点で非常に興味深いからだ。

 ところで、定性的理解は場の量子論を用い、定量的把握は量子光学を取り込むという目論見で立ち上げた自仮説の量子場光学だが、うまく構築できるだろうか。とはいえ、「存在は全てが光」への道を目指して、量子場光学の構築を励みに光とは何かの勉強をするという点では今のところうまく行ってそうで、ある程度は満足気分だが。。。